前回学習した通り、現代の日本は工業生産で成り立っています。その中でも特に中心となっているのが自動車産業です。自動車産業がなければ今の日本の経済は成り立ちません。とはいえ、自動車工場が至るところにあるというわけでもありません。
しかし、日本の就業人口のおよそ8%が自動車関連産業で働いています。一体どういうことなのでしょうか。一見、無駄なウンチクにしか見えない知識ばかりですが、大手学習塾のカリキュラムにも1回分として組み込まれているほど日本の自動車産業は、入試に出題されやすい単元です。日本の工業の主役、自動車産業の特徴を学習します。
機械工業の中の自動車産業
いきなりですが、前回の復習です。自動車工業とはどういう産業でしたか?
重化学工業であり、機械工業であり、その中の一産業でしたね。
工業出荷額全体に占める機械工業の割合はおよそ46%(2017年)、さらにそのうちのおよそ40%を自動車出荷額が占めています。工業出荷額全体に占める自動車の割合は20%弱、金額にして年間62兆円を上回ります。
いかに自動車産業が巨大かと言うことがわかるでしょう。
自動車産業の特徴
日本で自動車を作っているメーカーはどれくらいあるでしょうか?
おそらく10社にも満たないでしょう。トヨタに日産、ホンダと皆さんの知っている社名ばかりです。
しかし、実はそれだけではありません。自動車はなんと2万~3万点の部品から作られています。これら全てをトヨタや日産といったような自動車メーカーが作っているわけではありません。
それぞれのパーツは関連工場と呼ばれる町工場のような中小企業が作っています。このような中小企業の工場を自動車メーカーの自動車工場(組み立て工場)に対し、関連工場と呼んでいます。
一つの車の製造に関わる関連工場は300社を超えます。座席シートを一つとっても、それだけでもおよそ50社が化関わっていると言われています。
つまり、一つの自動車工場が海外移転などでその町から消えてしまうだけでこれだけの多くの企業に影響が及ぶのです。⇒産業の空洞化(復習)

自動車産業の特徴
自動車の作り方
日本の自動車メーカーが世界有数のメーカーに成長したのは、単に車の性能が良いということだけではありません。それは、ムリ、ムダを無くし、徹底的に効率化した生産方式があります。
上で紹介した自動車工場と関連工場の関係もその一つです。
自動車メーカーはあくまでもパーツを組み立てるのみであり、ほとんどのパーツを中小企業に外注しています。全てのパーツを自分で作るよりも効率的でかつ、安く作れるからです。
さらに、パーツの発注にも工夫がされています。それは、自動車工場は在庫を持たないということです。在庫を保管するのには広い場所が必要です。ですから、自動車メーカーは「必要なときに必要な個数」を関連工場に発注します。これを「ジャスト・イン・タイム方式」と呼びます。
トヨタが始めたため、「トヨタ方式」や「かんばん方式」と呼ばれることもあります。

かんばん方式
また、一つの町が自動車工場を中心に多くの関連工業で成り立っている状態を「企業城下町」と呼びます。自動車工場を城をとらえ、城の周辺にその城に仕える人々が住んでいるからです。
さらに自動車工場の中では、「流れ作業」(ライン生産方式)によって自動車は組み立てられています。
このような工夫によって安くて大量の生産を実現しているのです。日本では1年間におよそ1000万台の車が生産されています。

自動車ができるまで
日本の自動車生産の問題点
(1)上の「自動車の作り方」を読んで、逆に日本の自動車生産の問題点を考えて書きなさい。 ヒント
「ジャスト・イン・タイム方式」・「流れ作業」にはデメリットも存在します。
解答
例1) ジャスト・イン・タイム方式は自動車メーカーにとってはメリットになる一方、中小企業(関連工場)にとっては非常に安い価格で、かつ数日以内に品質の良い部品を納めなければならず、厳しい条件を突きつけられている。また、自動車メーカーが移転や閉鎖した場合、関連工場も倒産するおそれがある。
例2) 流れ作業では一人で一つの作業工程しか行わないため、単純労働者になってしまい、熟練の技術者が育たない。ロボットのような単純作業の為、労働意欲が低下する。また、1か所でミスが発生すると、大量の不良品を生み出す可能性がある。
「ライン生産方式」とは逆に、1人又は複数人がより広い工程を受け持って生産することを一人屋台生産方式又は「セル生産方式」と呼びます。

セル生産とライン生産の違い
大工場と中小工場の割合

大工場と中小工場の割合
工場数と従業員数をみると、圧倒的多数の中小工場によって大工場が支えられているということがわかります。しかし、出荷額では大工場が中小工場を上回っています。これは自動車産業に限ったグラフではないですが、中小工場の多くは安定した仕事を得るため、大工場の下請けをしています。
しかし、大工場では部品を安い海外のものに切り換ることも増えています。この影響で下請けをやめさせられたり、値下げを要求されることも少なくありません。そのため、中小工場では人手不足も深刻で、高齢化が進み、廃業する工場も増えています。この構造は日本の工業が抱える大きな問題です。
日本の自動車産業の歴史
日本の自動車産業は戦後、1960年代から国内向けを中心に生産を伸ばし、1970年代には国内向けのみならず、アメリカ向けを中心に輸出が増えていきました。
これはオイルショックに伴う燃料費の高騰から、燃費の良い日本車が支持されたことによるものです。
しかし、アメリカでの日本車の売れすぎによる貿易摩擦(復習)から、1980年代以降、アメリカでの現地生産を開始しています。さらに、その後は中国、タイ、インドネシアなど、アジアでも現地生産を進めており、2007年には海外生産台数が国内生産台数を上回っています。
なお、日本国内での生産台数は2018年現在、中国、アメリカに次いで3位です。各国の生産台数のグラフの推移は試験に出題される可能性が非常に高いのでトップ5までは覚えましょう。
近年の傾向としては2000年代に入り急成長をする中国、そして2005年以降、不況で落ち込んだアメリカが2009年を境に回復傾向にあることです。今後はベンツでも有名な4位のドイツが新興国インドに抜かれる可能性があります。

各国の自動車生産台数
近年、電気自動車やハイブリット車など、環境にやさしい新エネルギー車やエコカーが増えています。
一方で、日本では自動車を保有せず、必要なときにだけ利用するカーシェアが増えてきました。特に都市部を中心として、若者の自動車離れが進んでおり、自動車を購入する人は徐々に減っていくものと思われます。自動車メーカーの中にもカーシェア事業に取り組む会社も出ています。
主な自動車工場の所在地
自動車工場は日本のどういった地域にあるのでしょうか。家の近くに工場があるという人はすぐにわかるかと思いますが、なかなかイメージが付かないかもしれません。
意外に知られていないようですが、工場で完成した車は1台ずつ走って自動車販売店にやってくるわけではありません。一度に大量の車を運ぶため、船やトレーラーに載せられて運ばれます。また、輸出の際には必ず船で運ぶ必要がありますから、多くの自動車工場は沿岸部かそこからあまり遠くないところにあります。
ただし、大量消費地に近い関東地方では、内陸部にも多くの工場が立地している他、土地が安いことをから、東北地方の内陸部にもいくつか存在します。
まずは都道府県別の自動車の生産台数を見てゆきましょう。
その他の覚えるべき都市
・三重県鈴鹿市
ホンダ工場 鈴鹿サーキットでも有名ですね
・福岡県苅田(かんだ)町
日産工場 マイナーな地名ですが、港・空港・高速道路インターチェンジが揃っており工場の集積地帯です。
・岡山県水島市
三菱工場(主に軽自動車)

自動車工場の立地
まとめ
戦後の自動車産業と共に成長してきました。
各メーカーの生産技術へのたゆまない努力の結果です。
関連する工場が多く、日本経済に与える影響は非常に大きいものになっています。日本の経済の今を知るためにも、自動車産業への理解は欠かせません。
また、地球環境問題や、少子高齢化問題など、自動車産業を取り巻く事情は刻々と変化しています。自動運転車も近い将来、実現されることでしょう。
普段のニュースをよく見るなど、アンテナを張っていてください。
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