現代の生活に欠かせないお肉。今回は家畜を育て牛乳、卵、それに肉を生産する畜産業から日本の地理を学習します。ふだん私たちが食べている鶏肉、牛肉、豚肉はどこからやってくるのでしょうか?
日本の畜産は、農業以上に外国への依存が進んでいます。我々の食生活で密接に関わっている世界の国々も併せて学習しましょう。さらに、畜産業が抱える問題点も学習します。外国からの輸入に頼っていると、当たり前のように日々食べているお肉がある日突然、レストラン、そしてスーパーから消えることもあるのです。将来に渡り、私たちがおいしく、安全なお肉を食べるためには、どうしたらよいのか、考えながら学習を進めましょう。
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日本の畜産の特徴
日本人はもともと、野菜や魚を食べる民族であり牛乳や卵、肉をほとんど食べてきませんでした。これらを食すようになったのは文明開化が起きた明治時代以降であり、特に消費量が急増するのは、戦後、1960年代に始まる高度経済成長期以降です。
つまり、日本において畜産は比較的新しい産業なのです。
ですから、もともと気候や環境が畜産にあまり適していないこともあり、畜産を行っている地域は、一部の場所に限られています。その一部の場所とは、農業にあまり適していないエリアや、広大な土地のある北海道などです。
日本の畜産業① 酪農
下記は日本国勢図解2020/21が発表した家畜の飼育頭羽数です。ここでは家畜ごとに要点を押さえていきましょう。

家畜の飼育頭羽数(2019年)
酪農とは牛の生乳を搾り、そこから牛乳からバターやチーズも生産することです。乳を搾るための乳牛は、暑さに弱く、東北地方や北海道がその生産地のほとんどを占めています。
乳牛には白黒のホルスタインや茶色のジャージーと呼ばれる品種があります。

ホルスタイン

ジャージー
乳牛の飼育頭数ランキング
1位 北海道
全国の乳牛の約6割が北海道で飼育されています。北海道と言えば、やはり広大な牧草地に牛が長閑に放牧されているというイメージを持つでしょうが、実際にその通りです。
特に北海道でも乳牛の飼育が盛んなのは、北海道東部の根釧台地(パイロットファーム)です。
根釧台地
夏に濃霧が発生するため、気温が上がらず農業に適さない。1950年代のパイロットファーム(実験農場)計画で、近代的な機械を使い、大規模酪農経営を展開するという、 いわゆる酪農先進地帯として開発される。夏の間に刈り取った牧草をサイロに貯蔵。
2位 栃木県
大消費地の東京首都圏に近いことから、栃木県北部の那須高原で乳牛が飼育されている。
3位 熊本県
比較的標高の高い阿蘇山山麓やカルデラで乳牛が飼育されている。
4位 岩手県
熊本県に僅差で頭数が少ない岩手県。北上高地を中心に乳牛が飼育されている。
小岩井農場 明治時代に開墾された近代的酪農農場
小岩井農場が位置する一帯は、かつて岩手山からの火山灰が堆積し、夏には冷たい風が吹き、冬には吹雪となって、作物の生育を妨げる不毛の原野でしたが、明治時代の殖産興業政策の一環で、外国の技術や品種を積極的に取り入れ、緑豊かな農場に生まれ変わりました。岩手県出身の文学者、宮沢賢治はこの牧場景観を愛し、作品にも登場します。一部の施設は国の重要文化財に指定されています。
日本の畜産業② 食肉生産(牛・豚・鶏・卵)
乳を搾るための乳牛に対し、肉を生産するための牛を肉用牛と言います。
しかし、日本で生産される「和牛」には、おいしいものの、高いイメージを持つ人がほとんどではないでしょうか。特に安価な牛丼チェーン店やレストランで提供されている肉は、ほぼアメリカ産やオーストラリア産と表示されています。
生乳に比べ、鮮度を必要としない牛肉は、安い外国産の牛肉におされ、国内の生産地は本当に限られた土地になっています。豚肉や鶏肉も同様です。
ただし、鮮度が重要な卵はほぼ国内産で、主に大都市近郊で生産されています。
肉用牛の飼育頭数ランキング

食肉牛
飼育頭数ランキング
1位 北海道(十勝平野を中心)
2位 鹿児島県(シラス台地でも盛ん)
3位 宮崎県
1位の北海道では広大な土地を活用して、「十勝平野」を中心として、大規模な牧畜が行われています。国内の肉用牛のうち約2割が北海道で飼育されています。
また、桜島などの火山灰が降り積もったシラス台地でも、畜産が盛んです。国内の肉用牛のうち約2割が鹿児島県と宮崎県で飼育されています。シラス台地がいかに農業に向かない土地かと言うことがわかります。

牛肉
牛肉の輸入先ランキング
1位 オーストラリア(51.3%)
2位 アメリカ(40.7%)
3位 カナダ
牛肉と言うとアメリカの印象が強いですが、近年オーストラリア産牛肉(オージービーフ)が増えています。これはアメリカ産牛肉にBSE問題が発生したことも影響しています。
豚の飼育頭数ランキング

豚
飼育頭数ランキング
1位 鹿児島県
2位 宮崎県
3位 北海道
鹿児島県、宮崎県は非常に畜産が盛んな地域と言うことがわかります。また、鹿児島県産の豚は「黒豚」というブランドでも有名です。
豚肉の輸入先ランキング
1位 アメリカ(28.4%)
2位 カナダ(23.9%)
3位 スペイン
肉用若鶏(ブロイラー)の飼育羽数ランキング

肉用若鶏(ブロイラー)
飼育羽数ランキング
1位 宮崎県
2位 鹿児島県
3位 岩手県
ここでも宮崎県・鹿児島県がトップ2入りしています。

鶏肉
鶏肉の輸入先ランキング
1位 ブラジル(71.7%)
2位 タイ(24.8)
3位 アメリカ
多くの鶏肉はなんと地球の裏側から日本にやってきているのです。
採卵鶏飼育頭数ランキング

採卵鶏
飼育頭数ランキング
1位 茨城県
2位 千葉県
採卵鶏とは卵をとるための鶏です。卵は鮮度が重要なため大量消費地の周辺で生産されています。しかし、宅地開発の拡大で、悪臭などの問題が発生しています。
畜産業の抱える問題
家畜を育てることは、米作りや野菜作りに比べ、さらに大変な仕事です。というのも、エサやりや、畜舎の掃除などで、1年365日に休む暇もないからです。
一般農家と同じく、畜産農家は年々減少し、高齢化も進み、後継者不足に直面していますが、それ以上に厳しい環境に置かれています。
トウモロコシをはじめとした家畜用飼料のほとんどは輸入に頼っており、近年、その飼料価格も高騰しており、畜産農家の経営を圧迫しています。さらに、家畜の感染症が発生した際には、その農家からは出荷することが出来ず、場合によっては「全頭処分」など、厳しい対応を求められます。
家畜感染症
国内での家畜感染症の発生
鳥インフルエンザ(肉用若鶏):2007年宮崎県等
口蹄疫(牛):2010年宮崎県等
その他の感染症
BSE(牛海綿状脳症):2003年12月アメリカ
アメリカ産牛肉輸入が数年間にわたり禁止になる。吉野家から約2年間牛丼が消える(豚丼に変更)。我々の食生活に大きな影響を及ぼした。
農家の工夫
畜産農家の工夫
地域資源を活かした肉のブランド化(高付加価値化):山形県米沢牛、岩手県前沢牛、兵庫県但馬牛
家畜管理のIT化
国産飼料の拡大:食用米から飼料用米への転作、食品残飯を活用した飼料(エコフィード)づくり
まとめ
畜産も広い意味で農業の一つです。
既に勉強したとおり、私たちが肉を食べることが食料自給率をさらに下げています。しかし、肉を食べないわけには行きません。
安い外国産のお肉についつい手を伸ばしたくなりますが、国内畜産農家を応援するためにも、国内産の肉をたまには食べる必要もあるのではないでしょうか。
お金には変えられない、安全さ、そしておいしさがあるはずです。日々の買い物で、お肉の生産地に注目してみてください。